SPECIAL INTERVIEW

庭乃家ができるまで

【対談】庭師×建築士
「家と庭を一つの空間として考える、これからの住まいづくり」

『庭や』おし組の代表であり、
庭師として数々の造園・土木の
経験を積んできた鴛海紳一郎氏と、
一級建築士として伝統的な建築技術を大切にしつつ、
自然素材を活かした住宅、店舗、施設などを
手がけてきた加生祥啓氏。

普段は、一緒に仕事をすることが少ないという
庭師と建築士という異色の組み合わせによって
生まれた『庭乃家』には、どのような思いが
込められているのでしょうか。

初コラボ建築となった
ショーハウス&ガーデンを中心に、
お互いの思いを語り合いました。

庭と家とが関連して
新しいブランドが
生まれる

鴛海
今回、『庭乃家』を始めるに当たって、「ぜひ加生さんにお願いしたい」と思って連絡をとってみたのですが…。
加生
鴛海さんとは一度現場でご一緒して、それから年賀状だけのやりとりが4〜5年続いて、お話をいただいた時は驚きましたが、庭を想定した家づくりというコンセプトが面白いなと思いました。
鴛海
本来は庭や外構は、家が建ってしまってからの仕事なので、建築士と庭師が一緒に仕事をすることがほとんどありませんよね。
加生
最近の新築住宅は、庭にお金をかけない傾向にあります。だけど私は「外部が豊かなでないと内部も豊かにはならない」と考えていて、そんな時に「庭を生業にしてきた人がつくる家」が興味深いと…。庭と家を関連付けることで、新しいブランド価値が生まれると感じました。
鴛海
以前から、家が建ってしまってから外構を工事すると「最初からやっておくと良かったのになあ…」と思うことが多々ありました。私には「庭を含めての家」という考えがあります。私の信条は「土地は奥から作業する」。庭を含めて土地全体を把握してから、家を建てていきたい。住まいとは家の玄関が入り口ではなく、庭を含めた空間そのものが入り口だと思っています。
加生
最近の新築の物件の多くが、庭を切り離して考えてしまっています。私は「建築家がすべてデザインするのではなく、庭師をはじめ工事に関わる技術を職人さん(大工、左官、建具屋など)の知恵をお借りしながら創り上げていきたい」と思っています。そういう意味では、今回のショーハウスにしても鴛海さんや大工さんたちの意見をなるべく取り入れたいと考えていました。

庭師の発想と
建築士のこだわりが融合

鴛海
今回のショーハウスの建物部分については基本的には加生さんにお任せしているのですが、ロフトへの階段は私の意見を採用していただきました。
加生
コンクリートの足場の階段ですね。最初は木製を考えていたのですがコストがかかることが問題となって…そんな時に鴛海さんが提案してくださって!コンクリートを使い慣れている庭師としての発想に「さすがだな」と思いました。
鴛海
一方で、加生さんのこだわりを感じたのが、外のひさしの垂木の部分。先を地面と水平にカットしているんですが、大工さんたちからは「なぜこんな手間のかかることを?」という声があったんですけど(笑)
加生
ちょっとしたところですけど、それだけで印象がまったく違ってきます。特に今回のショーハウスでは軒先1mまでひさしを伸ばしているので、スマートな印象にしたい。今は窓にひさしがない住宅も多いのですが、私は、夏は熱い日差しを遮り、雨の日であっても窓を開けて風を入れることができるようなひさしは、日本の住宅には必要だと考えています。
鴛海
いざ出来上がると、大工さんたちからも「お~!かっこいいね~」と、想像を超える仕上がりに感動の声が上がっていました。

自在な暮らしを実現する
広い土間、広いロフト

鴛海
広い土間も気に入っています。ここにピッタリのソファを置いて、ここから裏山の竹林をじっくり眺めたいですね。
加生
土間は広ければ広いほど外とつながりやすくなります。ショーハウスは玄関らしい玄関がないだけに、マットを置いて自由に外と内とを分けられるように考えています。リビングと一体になった土間は、北側も南側にも窓があり、西側の上部の窓からは、夕方の日差しが家の中にスーッと入ってきて、自然を感じられると思います。ロフトの窓からは、お隣の庭が借景になっていて、これもまた情緒があります。
鴛海
薪ストーブは手間がかかりますが、その手間を楽しみたいという方にはぜひ設置してほしいですね。天井はロフトまで登り梁が連続していて、この家の細長い造りがより感じられますね。
加生
ロフトというのは基本的には倉庫や収納というカテゴリーなのですが、今回のショーハウスでは、なるべく広さを確保しました。また、風取りの窓もあるので、空気の入れ替えもできるため活用の幅も広がります。玄関ポーチやテラス、バックヤードは全て屋根付きにして、使い勝手良くしました。玄関ポーチは12畳ほどあるので、ガレージにしてもいいのですが、テーブルを置いて家族でバーベキューを楽しむこともできて、もう一つの部屋のように使ってもよいと思います。

石積みや緑が
美しい庭ができたことで、
理想の住空間が完成

鴛海
テラスには屋久島の地杉を使用していますよね。
加生
屋久島は雨が多いところで、そこで育った杉なので湿気に強いし、長持ちします。「経年変化」すると、その土地に馴染み、その土地特有の経年の色に変化するところが何と言っても魅力ですね。そのテラスからは庭の芝生が連なって、子どもたちがそのまま遊びに行けるようになっていますね。
鴛海
ショーハウスの庭は、テラスから続く芝生の広場、枯山水をイメージした石庭、シンボルツリーを活かした玄関アプローチ、そして石のテーブルを配置したり、波打ち際のような風景を石で表現したり、お客さまにいろんな庭をイメージできるような庭づくりをしました。
加生
想像していた以上の素晴らしい庭に驚きました。建築士は緻密な計算や法律に基づいて設計していきますが、庭師というのは独特のバランス感覚というか、私たちとはまったく違うアプローチなのだと改めて感じました。石は規則的な形をしていませんし、どのように組み合わせているのか気になります。
鴛海
頭の中に設計図はあるのですが、やはり石は置いてみないと分からない(笑)。玄関アプローチに配置した大きな石は、何回も場所を変えて設置して、ようやくここに落ち着いた。ここがこの石の“嫁ぎ先”だったのだと、置いてみてやっと分かるといった感覚ですね。玄関の大きなコマユミの木も、どこに配置するか迷いながら、ここに収まって、これがシンボルツリーになりました。
加生
そのシンボルツリーから階段を挟んで向かいにある枯山水のような石庭も印象的です。
鴛海
芝生と石庭を分ける石積みの壁には、炭鉱町だったこの地域から産出された「ボタ石」と私たちが呼んでいる黒っぽい石炭の石も使用しています。玄関アプローチの階段に、この黒い石を使ってトンボ柄や京町家の土間などで見られる小石をいつくか散りばめた「一二三(ひふみ)石」もポイントです(笑)。ちょっとした遊び心ですけど、庭の面白さを感じていただければと思っています。
加生
「窓を通して家の中から緑を眺めてほしい」と設計してはいましたが、まさに想像通り、いや、それ以上の眺めに感動しています。
鴛海
家の中からの眺めを計算しながら植栽しました。加生さんの設計で、風が通り抜ける窓の配置のおかげで暑い夏であっても涼しくて快適。庭の植栽の葉ずれの音も聞こえて、本当に居心地がいい空間になりました。
加生
玄関アプローチから入ってきてポーチの向こう側に見える石積みと一本の桜の木もいいですね。
鴛海
私が石を使った庭が好きなので、ここには力を入れました!この風景が生まれたことで、このポーチの印象が変わったと感じています。駐車場から玄関に上がる左手には、石だけで表現した波打ち際の風景もあるので、ぜひそこも見てほしいですね。

一年、また一年と
変化を楽しむ暮らしを

加生
私は設計する時には洋風や和風は意識しないようにしています。特に今回は木の風合いをそのままに、屋根も和風建築では一般的な切妻造りですが、素材そのものに近いシルバーの色を採用しました。それが庭の緑を邪魔することなく、溶け込むことができたと感じています。まさに庭ができたことで、この家が完成したと実感しているところです。経年変化で、また家の風合いが変わって、庭の植栽も成長して、どのような風景を見せてくれるのか楽しみです。
鴛海
植栽が多すぎて、せっかくの加生さんの家が隠れてしまうのではないかと心配しています。
加生
隠れてしまっても大丈夫です!その風景も、この住まいの良さにもなると思っています。
鴛海
今のところショーハウスは、全体的に若い木の色合いですが、これが一年、また一年と経っていくうちに、独特の風合いが出てくると思いますし、それが何よりも『庭乃家』の魅力になると思います。このショーハウスの風景が、ご近所にとって良い借景となって、この地域全体を豊かにできたらと思っています。ぜひ多くの方に、まずはこのショーハウスを見に来ていただいて、自然を活かした木と風を感じるこの空間を体感していただきたい。そして、庭師である私やスタッフと一緒に、まずは理想の家づくりについて、ゆっくり語り合ってほしいと願っています。

PROFILE

プロフィール

建築士

加生 祥啓Kasho Yoshihiro

atelier Kasho 一級建築士事務所
〈一級建築士〉

https://atelier-kasho.com

庭師

鴛海 紳一郎Oshiumi Shinichiro

株式会社おし組 代表取締役
〈1級造園・土木施工管理技士、1級造園技能士、1級エクステリアプランナー、植栽基盤診断士〉